「あなたの熱量、大切にお預かりします。放出ロス無し!0.1度からOK!」
そんなネット広告を見つけたのは、作ったカップ麺の湯気がもうもうと立ち込め持ち上げた途端冷めてしまうような記録的な寒さの日だった。
お湯を沸かしながらSNSのニュース部分を流し見でチェックしていた。
その最下部にその広告は表示されていたのだ。
ワンクリック詐欺が頭によぎったが、信頼のおけるSNSだしおかしかったら通報すればいい、くらいの気持ちでそのバナーをクリックした。
表示を待つ隙に沸いた湯をカップ麺に注ぎ、どれどれとスマホの画面を見る。
熱量銀行、という文字がページのトップに大きなゴシック体でシンプルに表示されている。
ページを下へ進めると、次のように説明されていた。
寒さ・暑さでお困りではありませんか?夏に感じる暑さを冬に分けられたら…冬に感じる寒さを夏に使えたら…当行なら可能です!
突然の発熱の際のご預熱、または一時的に発熱したい時にも0.1度(体温計での1分に相当します)から引き出せるので安心です(別途手数料がかかります)
スマホアプリから24時間出し入れ可能
口座開設・手数料無料
おいおいスマホからどうやってそんなことできるんだよ、と蓋の上で温めておいた液体スープを混ぜ入れながら思わず笑ってしまった。
しかも無料というのが怪しい。
説明を読む限り、体感温度も実際の体温も出し入れできるようだ。
(体温は手数料が必要だそうだが)
なるほどそんな便利なことが本当に可能なのか。
麺をすすり、怪しいと思いつつも興味半分で、でももしできたらいいなというアホらしいが微かな期待もしつつ登録画面に進んだ。
住所、氏名、電話番号、メールアドレスとスマホの機種を登録する。
あとはSMSで送られてきた設定用のパスワードを所定の欄に入力し、パスワードを再設定するだけであっけなく済んだ。
口座の開設ありがとうございます。出し入れに便利なアプリはこちらからダウンロードできます。
導かれるままアプリもインストールし、温度計と天秤を足したようなデザインのアイコンが画面に追加された。
熱量(単位は℃を用いている)を出し入れする専用の機器が一週間以内に送られてくるようだ。
充電端子の部分を利用して使えるらしい。機種を登録したのはそのためだろうか。
この専用機器が高くて詐欺なんじゃないか?と思ったが、費用はかからないそうだ。
すっかりぬるくなったスープと伸びきった麺の欠片を最後まで飲み干し、心のどこかで胸が高鳴ってしまっている自分が居た。
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突然なんだ?という感じですが、昔書いた小説です。
ちょっと現代版に表現を修正したり追記したりしてみました。
もう少し続きます( ̄▽ ̄)